コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—

泣き顔

翌週、水惟は渋々深端グラフィックスの会社説明会に訪れていた。

(大きいビル〜…女性はみんなキレイなお姉さんて感じだし、はっきり言って雰囲気が威圧的で怖い…私がここで働くことは無いなー…)
水惟は深端本社のエントランス前でビルを見上げながらそんなことを思っていた。

(生川 洸さんの話が聞けるのはおもしろそうだから、今日はそれだけ楽しんで帰ろ…)

(会場は会議室…4階…か。まだ時間あるし…)
階段で会場を目指す事にした。

蟹江(かにえ)教授も強引だなぁ…こんな会社に私が合うわけないって自分が一番わかるのに…)

水惟は作品集(ポートフォリオ)のファイルを胸元で抱きしめるように持ち、考えごとをしながら階段を上っていった。

目当てのフロアに着いた水惟は、部屋のドアにつけられたドアプレートで会場を探した。

(会議室…会議室…あ)

水惟は【会議室A】と書かれたプレートを見つけ、ドアを開けた。

「え…」
ドアを開けた瞬間、男性の驚くような声が漏れた。

(え…)
水惟も心の中で同じように驚いた。

部屋の中には、背の高いスーツ姿の男性が缶コーヒーを片手に一人窓際に立っている以外誰もいない。
それどころか、学生が何十人も入れるような広さの部屋ですらない。
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