コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
恵比寿に居を構えるリバースデザインは、コンクリート造りのビルと木の生い茂る庭を持つ建物の2階の1フロアを間借りしている。
庭の深緑が見える開放的な大きな窓に背を向けるような配置で、コの字型にデザイン用のパソコンがズラリと並んだ広めのメインルームが一つと、商談や打ち合わせで使う小さなミーティングルームが2つある。
メインルームにはいつも洋楽中心のFMラジオが流れている。

水惟はいつものようにミーティングルームで洸から新規案件の説明を受けていた。
「今回の件、深端(みはし)なんだけど…いけるか?」
洸がどこか心配そうな顔で言った。

「やだな、洸さん。まだそんなこと気にしてるの?深端の案件なんて今までだって何回もやってるじゃないですか。」
水惟は落ち着いた表情のまま、「ふっ」と静かに笑って答えた。

深端とは、株式会社 深端グラフィックス。洸と水惟がかつて働いていた、業界で三本の指に入る大手広告代理店だ。

「今まで深端の案件はデザインの実作業だけ水惟にお願いしてただろ?今回は深端に打ち合わせにも行ってほしいんだ。担当者との打ち合わせも一度じゃなくて何度かあると思う。」

「え…」

水惟の表情が一瞬曇る。
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