コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
before : side蒼士
“よくわからない子”それが深山 蒼士にとっての藤村 水惟だった。
営業部の研修初日に自分の「深山」という名字をつぶやかれたときから“よくわからない”が始まっていた。
(俺が社長の息子だって知らないってことはあり得るけど、あんな風に繰り返しつぶやくほど覚え難い名前ってわけでもないと思うけどな。)
ある日、深端の先輩社員でADの洸が蒼士に聞いた。
「蒼士って結構水惟のこと気にしてるよな。もしかして好きなタイプだったりする?」
ここのところ浮いた話も無い蒼士が珍しく女性の名前を口にするので、探りを入れているようだった。
「俺の好きなタイプはもっと大人っぽい感じだよ。深端にいないタイプだから、そういう意味で確かに気にはなってるかな。」
蒼士は淡々と言った。
タイプとは言っているが、大人っぽい感じの女性としか付き合ったことがないだけで、実際のところ好みのタイプはあまり意識していない。
“深端の跡取り”である自分は、落ち着いていて何事もそつなくこなすような女性と交際して結婚するのが自然な流れなのだろうと思っている。
だからそういう女性とだけ交際してきた。
しかしそんな気持ちで女性と付き合うのはなんとなく時間の無駄のような気がして、ここ最近は仕事に集中していた。
どうせじきに縁談の話が増え、そこから結婚相手を探すのが最も望まれていることだろう、とも思っていた。
「あ、でも藤村さんて」
「ん?」
「俺のこと好きなんじゃないかと思う。」
———ブッ
洸は飲んでいたウィスキーを吹き出した。
———ゴホッ
「自意識過剰だろ。」
「いや、でも…」
「はいはい。イケメンは大変だな。」
営業部の研修初日に自分の「深山」という名字をつぶやかれたときから“よくわからない”が始まっていた。
(俺が社長の息子だって知らないってことはあり得るけど、あんな風に繰り返しつぶやくほど覚え難い名前ってわけでもないと思うけどな。)
ある日、深端の先輩社員でADの洸が蒼士に聞いた。
「蒼士って結構水惟のこと気にしてるよな。もしかして好きなタイプだったりする?」
ここのところ浮いた話も無い蒼士が珍しく女性の名前を口にするので、探りを入れているようだった。
「俺の好きなタイプはもっと大人っぽい感じだよ。深端にいないタイプだから、そういう意味で確かに気にはなってるかな。」
蒼士は淡々と言った。
タイプとは言っているが、大人っぽい感じの女性としか付き合ったことがないだけで、実際のところ好みのタイプはあまり意識していない。
“深端の跡取り”である自分は、落ち着いていて何事もそつなくこなすような女性と交際して結婚するのが自然な流れなのだろうと思っている。
だからそういう女性とだけ交際してきた。
しかしそんな気持ちで女性と付き合うのはなんとなく時間の無駄のような気がして、ここ最近は仕事に集中していた。
どうせじきに縁談の話が増え、そこから結婚相手を探すのが最も望まれていることだろう、とも思っていた。
「あ、でも藤村さんて」
「ん?」
「俺のこと好きなんじゃないかと思う。」
———ブッ
洸は飲んでいたウィスキーを吹き出した。
———ゴホッ
「自意識過剰だろ。」
「いや、でも…」
「はいはい。イケメンは大変だな。」