コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—

On a date : Afternoon

「え?」
ギャラリーの出口付近で、蒼士は驚いていた。

「帰りは散歩しながら一人で駅まで歩けるので大丈夫です。今日は勉強になったし楽しかったです。ありがとうございました。」
昼前だというのに、水惟はペコリとお辞儀をして帰ろうとしている。

(楽しそうに見えたのも俺の勘違い?)
蒼士はまたわからなくなった。

「はぁ…」と自分にしかわからないような小さな溜息を()くと、水惟を引き留めるように言った。
「なんでもう帰るの?」

「なんでって…今日の用事はもう終わり…ですよね…?」
水惟は展覧会を見るという“研修”が終わったと思っている。

「“用事”って…」
(もしかして藤村さんは断り辛くて来ただけ?面倒な用事だったってこと?)

水惟はキョトンとしている。

「あ」
水惟が何かに気づいた。

「もしかして、レポートとか提出したりしますか?」
「え?レポート?何の?」

「何って、今日の展覧会の研修の…」
「研修?」
「はい」

「………」
「………」

蒼士の反応に水惟は困惑したようにうっすら眉間に皺を寄せ、蒼士も水惟の言葉の意味がわからず無言で少し考えた。

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