コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—

理由のわからない別れ

(私たちの離婚は全然きれいな別れじゃなかったと思う)

水惟には当時のはっきりとした記憶が無い。

ただ、蒼士の方から別れを切り出され、始めは絶対に別れたくないと縋りついたのはなんとなく覚えている。

(…ずっと一緒にいようってプロポーズのときは言ってたのに…)

蒼士の両親がどうだったかは覚えていないが、水惟の両親は“家柄があまりにも違っているから”と、離婚は自然な流れだと半ば諦めていた。

——— 申し訳ないけどこれ以上一緒にいられない
——— 深端も辞めてほしい

(あんな風に言ったくせに、一緒に仕事することには抵抗がないわけ?)

(…だいたい…)

(離婚の理由って結局なんだったの?)

一方的に別れを切り出され、説得され、水惟は家庭と仕事を同時に失った。
離婚の際には慰謝料としてマンションを一部屋与えると言われたが、蒼士に与えられた家に住んで思い出し続けるのはごめんだと断った。
当面生活していくために最低限の慰謝料は受け取り、仕事はリバースデザインに入れてもらってなんとかなった。
結果的に路頭に迷わずに済んだので憎むほどは恨んではいない。ただ、二度と会いたくない程度には嫌いになった。

(他に好きな人でもできたのかと思ってた。今頃その人と再婚してるのかな…って)

——— いるわけないだろ、そんな相手

(………)

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