コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「じゃあ次、カレシ登場しよっか。」

しばらく水惟を撮っていた芽衣子が言った。

「?え…?カレシ…?」

「深山さん写れます?」

「え!?」
芽衣子が蒼士に聞くと、水惟が驚いた声を出した。

蒼士はチラッと水惟を見て、その不安そうな表情(かお)に小さな溜息を()く。

「さすがに遠慮しとく。」

「ですよね。調子乗りました!」
芽衣子は「てへ」という顔をした。

「じゃあアッシー入って。」
芽衣子が今度は啓介に言った。

「おっけー」


啓介は水惟とは違って堂々としたモデルぶりを披露した。

「アッシーってモデルとかしてたの?」
カメラ越しに芽衣子が聞いた。

「アマチュアカメラマンの友達のとか雑誌のストリートスナップ程度ならやったことある。」

「へぇー身長(タッパ)あるから()になるね。今日の水惟とファッションが合ってるからカップルっぽさ出てていい感じ。ふふっ。ちょっと水惟の髪撫でてみて。」

(……メーちゃん、余計なことばっかり…)

水惟は蒼士のチクチクと刺すような視線を感じていた。
(あの人、こんなおふざけ写真撮ってるから内心イライラしてるんじゃない?)


「水惟ってさあ—」
カップルの設定で水惟の隣に座った啓介が、水惟にだけ聞こえる程度の声で話しかけた。

「ん?」

「全然男っ気ないし、そういう話題にも乗ってこないから、男が苦手なのかと思ってたんだけど。」

「…べつに…普通、だよ。」
水惟は俯き気味に言った。

(あれ以来そんな気になれないけど…)

「でもそんな水惟に人妻だった期間があったなんて、なんつーかギャップがエロいよな。」
「…は!?」

水惟が驚いて顔を上げた瞬間

—チュッ

啓介は水惟の頬にキスをした。
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