コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「…べつに話すほどのことなんて無いよ。ただ私が捨てられたただけ。」

「捨てられた?水惟が?」
啓介は意外そうな表情(かお)をした。

「…そうだよ。わざわざ言わせないで欲しいんだけど…」
「この間の深山さん、全然そんな感じしなかったけどな。」

「…4年も経ってるから忘れてるんじゃない?」
水惟は帰るのを諦めて、サラダのレタスと生ハムを食べながら冷めた口調で言った。

「アッシーが言った通り、大人だから。仕事のためなら元妻でも気にしないんだよ、きっと。」
「ふーん…じゃあ、水惟も忘れたら?」
啓介はナッツを指でいじりながら言うと、水惟の方を見た。

「新しい恋愛で。」

「え?」

「俺とかどう?」

水惟の眉間にタテ線が入る。

「あはは 露骨だな、水惟は。」
「だって…そんなこと考えたことない。」

「それって俺とだから?それとも恋愛自体?」
啓介はまた2択の質問をする。
「どっちも…」
「やっぱまだ好きなんじゃないの?」

水惟は首を横に振った。
「…私のことはもう好きじゃないって…結婚しない方が良かったって言われたんだよ。深端も辞めてくれって。」

「…それはなかなか…キツイな〜」
啓介は苦笑いした。

「だからこっちだってもう…無いよ。」
水惟は遠い目をするように言った。

「だったら俺はありじゃん?」

「同じ事務所の人だし。」

「深山さんだって同じ会社だったはずじゃん?洸さんと蛍ちゃんだって夫婦だし、全然ありでしょ。」

「…んー…」
水惟はどうもピンとこないという顔をしている。

「べつに今日決めなくてもいいからさ、ちょっと考えてみてよ。」


(アッシーと恋愛…?)

(…アッシーじゃなかったとしても…新しい恋…?)
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