コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「…違うよ…やってみたい仕事だから早く手をつけたかったの。まだラクガキ程度の息抜きみたいなものだよ。」
どこか言い訳めいた言い方になってしまう。

「深山さんてさ、やっぱ“あの”深山なんだよね?」
「…そうだけど…」

「水惟がやってみたい仕事だって簡単に取れるんじゃねーの?なんか向こうも水惟のこと気にしてそうだしさ。」

今度は水惟が小さく溜息を()いた。
先ほどの蒼士の無関心そうな態度を思い出していた。

「そんな…深山の名前を利用して仕事を取るような人じゃないよ。」
水惟は啓介の方ではなく、クロッキー帳を見ながら言った。

「そんな人だったら結婚してない。」
つぶやくようにボソッと続けた。

「でも離婚してんじゃん。」
「もー!啓介くん!」

「だって離婚は—」

(向こうが言い出したんだもん…)

(私はあの時だって…まだ…)

水惟の胸がギュッと息苦しくなる。

「—とにかく全然そんなんじゃないから。仕事はちゃんとするって決めてるだけだから。」

そう言って、水惟はゼリーを食べ終えてミーティングルームから出て行った。
啓介にはこの後、今度は蛍からのお説教があることが容易に想像できる。

(まだ…?)

(あの時は嫌いじゃなかったけど、今はもう…嫌い…)

——— 水惟ならできるよ、きっと。俺も見たい。
——— 覚えてるよ。俺は水惟のデザインのファンだから

(嫌い…)
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