コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
一緒に見始めたので、ほぼ同時に見終わることになった。

「水惟、この後空いてたら食事—」
蒼士が言い終わる前に水惟は首を横に振った。
“行くわけがない”という表情だ。

「だよな。」
蒼士は苦笑いで言った。

「じゃあ明後日、リバースにお邪魔するから。よろしく。」
「…はい。」

järviのロゴの件は、先日の蒼士の訪問の後にすぐに詳細な依頼内容のメールが来た。
それを受けて水惟は具体的なデザインラフ作成を進めていて、明後日は蒼士がそのデザインを確認するためにリバースにまた訪れることになっていた。

「じゃあ、失礼します。」
水惟はペコッとお辞儀をして、駅に向かった。

(別れた相手…ううん、好きじゃない相手と食事なんて、何考えてるの…)

水惟は蒼士の全く理解できない行動に腹を立てていたが、それと同時にカフェやレストランで展覧会の感想を言い合っていた昔のことを思い出してしまっていた。
自分とは違った視点の蒼士の感想を聞くのが好きだったし、蒼士も水惟の感想をにこにこと聞いてくれていた。

(今まで偶然会うことなんて無かったのに…なんで会っちゃうのよ…)

ギャラリーで絵を見る真剣な眼差しが水惟の脳裏にこびりついて離れない。
食事の誘いに乗っていたら、もしかしたらまた楽しく感想を言い合えたのかもしれない。

——— 水惟のことはもう好きじゃない


(ちがう…楽しくなんて話せない)
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