コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—

深山 蒼士

——— やだ!どうして!?ずっと一緒にいるって言ったじゃない…!
——— やだ!蒼士(そうし)!やだぁ…

水惟はハッとして目を覚ました。

(………)

悪夢に(うな)されていたような気がするが、夢の内容が思い出せない。
頬を触ると微かに涙の跡がある。

(…どうせあの頃の夢…)
水惟には悪夢の心当たりがあった。

寝起きではっきりしない頭を目覚めさせるべく、シャワーを浴びることにした。

(深端に行く日だからって嫌な夢見ちゃうなんて…我ながら繊細…)
水惟はシャワーを浴びながら溜息を()いた。
(もう4年も経ってるって、自分で言ったくせに)

「洸さんの付き添いなんて無くたって大丈夫ですよ?もう30歳(さんじゅう)だし。」
電車内のドアの側に立ち、水惟は不満げに言った。

「そうもいかないだろ。今日はプロジェクトのキックオフでもあるし、一応事務所の代表が顔出さないと。」
「まあそれはそうですけどー」
「今日の様子で大丈夫そうだったら次回からは水惟一人に任せるからさ。」
洸は参ったな、という顔をした。
「いつも思うけど、洸さんてお父さんみたい。」
水惟は「ふっ」と笑った。
「勘弁してくれよ。まだ42歳だよ?30歳の娘がいてたまるかよ。」
今度は洸が不満そうな顔をした。

灯里(あかり)ちゃんが生まれて、良いパパになってるってことじゃないですか。」
水惟は笑って言った。

「まあ、水惟のことは妹とか親戚の子とか、そんな感じの保護者目線ではあるよ。」
「ほらやっぱり。」

(洸さんと(ほたる)さんの優しさと面倒見の良さには本当に助けられた。)
水惟は心の中でつぶやいた。

蛍は洸の妻で同じ事務所の経理事務を担当している。リバースに転職してから、水惟はこの夫婦に何かと世話になってきた。
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