コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「だって…言ったじゃない、別れるとき…もう…私のことは好きじゃない…って」
喉の奥がギュッと締め付けられる。

「………」
蒼士は当時を思い出すように、少し考えた。

「たしかにそういうセリフは言ったかもしれないけど、水惟が思ってるような文脈では言ってないはずだよ。」

「え…?」

今度は水惟が不思議そうな顔になる。

「やっぱり…水惟の記憶は混乱してるみたいだな…」
「…でも、じゃあ…」

「俺は水惟のことは嫌いじゃないし、これから先も嫌いになんてならないよ。」

蒼士は戸惑う水惟の瞳をまっすぐ見据えて言った。

「じゃあ…」

(どうして離婚したの…?)


「今までずっと俺に嫌われてるって思ってた?」

「……だって…当たり前じゃない…離婚してるんだよ?」
水惟は困惑した声で言った。

「それに…結婚しない方が良かったって…言った…」

「……水惟…」
蒼士がどこか切なげな表情(かお)で水惟を見つめる。

「…それを言ったのは…」

「え…」

「水惟、俺は—」

蒼士の手が、水惟の頬に触れようとしている。

水惟の心臓はバクバクと困惑を隠さないリズムを刻み、頬は蒼士の手の熱を想像して、微かに熱くなる。
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