コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
———ガチャッバタンッ

玄関からドアの開け閉めの音が聞こえて、蒼士はパッと手を下ろした。

そして、ミーティングルームのドアが開いた。

「よぉ、いらっしゃい。」
洸が顔を出した。

「こんにちは。」
「…おかえりなさい…」

蒼士は何事もなかったかのように笑顔を見せたが、水惟は頭が整理できずまともに洸の方を見られなかった。

「これjärviさんのロゴか。」
洸はテーブルを見渡した。

「うん。水惟がすごく良いデザインを上げてくれたから、ここからいくつか絞って先方に見てもらうよ。」

「あ、洸さん、蛍さんが…」

「ああうん、病院行ったって連絡貰った。灯里はまだチビだからよく熱出すんだよ。明日にはケロっとしてるよきっと。」

「そっか…良かった…」
水惟はできるだけ普通にしようと会話を探したが、頭も心も落ち着かず、自分の心音が邪魔なほど耳に響いてしまい、うまく考えられない。

(………)

「じゃあ、湖上さんの要望に応えているものを2つと、このロゴを先方に提出しよう。他のデザインも念のため捨てずに取っておいて。」
洸が部屋から出ていくと、蒼士は通常の営業モードに戻った。

「…えっと、う…はい。データを整えて、提出用の資料をまとめておきます…」

蒼士は選んだ3つのロゴをまた無言で眺めた。

「………」

水惟はまた落ち着かない気持ちになった。

「水惟」
デザインを見たまま蒼士が水惟に声をかけた。

「…はい…?」
「デザインするの楽しい?」

「え?…このロゴは楽しかった…です。」
「他は?」
蒼士は水惟を見た。

「他?」
「他にも最近やってる仕事っていろいろあるだろ?楽しい?」

「え、はい。この仕事が好きだから…楽しいです。最近やっと、一人前になってきた気がするし…」
どうして急にそんな質問をされたのか、よくわからなかった。

「そっか。」
「…?」

蒼士はそこから少しだけ仕事の話をすると、帰り支度をした。

(さっきの、なんだったんだろうってくらい…普通だ…)
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