コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「えっ…て、そんな驚く?スピーチ、よくまとまってるよ。」

「あ、あぁ、スピーチ…」
(心の声が漏れてたかと思った…)

水惟は自分を落ち着かせるため、ティーカップを口に運んだ。

「…でも、水惟らしさは無いかな。いや、逆に水惟らしいか。」
「…なにそれ、どういう意味?」

不思議そうな顔をする水惟に、蒼士は笑って理由を説明する。

「大きな広告賞の受賞スピーチだから、きちんとした大人っぽい文章にしようって思っただろ?」
「…うん。」
図星だった。

「そういう意味ではきちんとしてて悪くないよ。水惟の真面目さが出てるところは水惟らしい。」
「………」

「でもさ、スピーチって水惟が思ってるほどみんなは聞いてないんだよ。」
「え?」

「最初から最後まで真剣に聞いてくれるのなんて、水惟のことを好きな人、水惟に関心がある人、水惟のデザインが好きな人くらいだよ。」
「え、そういうものなの…?」
蒼士は頷いた。

「水惟はこのスピーチで何を一番言いたい?」

「えっと…リバースの人たちへの感謝と…デザインが好きだからこれからももっともっと頑張りたいってこと…かな…」

「だよね。だったらそれをもっと、水惟らしい普段の言葉で伝えたら良いんだよ。こんな背伸びした文章じゃなくてさ。」

蒼士が柔らかな笑顔で言うので、水惟の心臓がまた反応してしまう。
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