コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「どうした?」

「その…ロゴの件、湖上さんにプッシュしてくれて…ありがとうございました。」

蒼士が湖上に水惟の作品を紹介してくれたことにお礼を言った。

「ああ、あれ。湖上さんは水惟の事例だけ見たような言い方だったけど、幅を持たせるために深端(うち)のデザイナーの事例も何人分か見せたんだよ。だから—」

「選ばれたのは水惟の実力。」
そう言った蒼士の手が、ポンと水惟の頭に触れた。

瞬間、蒼士はハッとしてすぐに手を離した。

「ごめん、水—」

水惟の顔が宵の口の薄暗がりでもわかるくらい真っ赤に染まっている。

「………やめ てよ…」

自分の鼓動の音で聞こえないようなか細い声で、表情に合わないセリフを振り絞るのが精一杯だった。

「わ、私、こっちだから…おつかれさまでしたっ」

水惟は会釈をすると、足早にメトロの改札に向かった。

(…やめてよ…)

(………)

(この間からおかしい、私…)

(あの人にもっと笑って欲しいって思ってる)

(もっと喜んで欲しい)

(それに)

(…触れて欲しいって…)

(………)

(…あの時…洸さんが帰ってこなかったら…)

水惟の脳裏に先日蒼士がリバースに来た時のことが()ぎる。
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