コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
蒼士の突然で意外な提案に、水惟は目を見開いた。

「…え…?みはしに戻る…?」

蒼士は頷いた。

「洸さんには前々から相談してて、洸さんは“水惟が戻りたいなら”って言ってくれてる。」
「え…ちょっと待ってよ…話が全然…え?洸さん…?」

蒼士はまた頷いた。

「夕日賞を受賞したタイミングなら、深端も高待遇で水惟を迎えられる。水惟をチーフにした制作チームを作れるから、水惟に権限も持たせられる。」

「…タイミング…?えっと…え…」
水惟は戸惑って話についていけない。

「水惟の気持ちは嬉しいけど、俺は—」

「もう、水惟と恋愛するつもりは無い。」

「え…」
水惟の頭が真っ白になる。

「恋愛とか抜きで、水惟がデザイナーとしてやっていくのを応援していきたいと思ってる。」

(…あぁ、そっか…そういうこと…)

「“嫌いじゃない”って、本当に言葉の通りだったんだ…」
水惟が言った。

「え…」
「嫌いじゃないだけで…べつに…特別好きでもない…。勘違いしちゃって恥ずかしい…。」
水惟の声はまだ微かに震えている。

「水惟…」
「そっか…なんで最近こんなに深山さんに関わることが増えたのかなって、ちょっと不思議に思ってたけど、夕日広告賞のタイミングだったんだ…」

(バカみたい バカみたい バカみたい…)

「でもよく考えたら、当たり前ですよね。もう別れてるんだから。離婚した相手をもう一回好きになっちゃうなんて…まぬけ…」
水惟は泣きそうな顔をごまかすように笑っている。
< 82 / 214 >

この作品をシェア

pagetop