コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「水惟」
「…だったら、優しくなんて…しないで欲しかったです。優しい言葉だってお菓子だって…それに…今日だって…ドレスがどうとか…言わなくてもいいのに…。大きな賞を獲ったデザイナーが欲しいって、正直に言ってくれた方が全然優しいよ…」

「………」
「…靴、いくらでした?これはさすがに経費で落ちないですよね。」
水惟は皮肉っぽく言った。

「いや、いらないよ。」

「………」
水惟は無言でバッグから財布を取り出し、手持ちの2万円を蒼士に差し出した。

「いらないって」
「足りなかったら後で請求してください。」

水惟は蒼士が受け取ろうとしないお金をソファに置くと、立ち上がって足早に部屋を出て行った。


(本当にバカみたい…)

——— 俺は水惟のことは嫌いじゃないし、これから先も嫌いになんてならないよ

(こんな気持ちになるなら、嫌いって言ってくれた方がずっとマシだった…それなら嫌いでいられたんだから…)

蒼士に助けられてスピーチを終えた時に感じた幸福感はもうすっかり消えてしまった。

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