腹黒執事は、悪役なお嬢様への愛が強め
思えば、彼とこうして二人きりで向き合ったのは初めてかもしれない。
友人を引き連れて、迷惑を考えずしつこく話しかけに行ったことは何度もあったけれど。
「それで、話したいことって?」
奏多くんは、キラキラとした魅力的な笑顔を私に向けている。
でもその顔からは、私のことをかなり警戒しているのがわかった。
……それも当然。奏多くんは、自分のことを好きな女の子たちに私が嫌がらせをしていたことを知っている。彼女の葉澄が体育倉庫に閉じ込められたのだって、まだ記憶に新しいはず。
好意的な態度をとれという方が難しい。
今もきっと、私に逆らうことでまた葉澄に何かされたらたまったものじゃないと思って来てくれただけなのだろう。
「これを、渡したくって」
「これは?」
「バレンタインのチョコレート」
私は紙袋を奏多くんに押し付けながら、目をまっすぐ見て言った。
「義理のね。……あ、友チョコっていうのだったかしら」