腹黒執事は、悪役なお嬢様への愛が強め
「岸井さん」
「何かしら」
「ありがとう。ハスもすごく喜ぶと思う」
奏多くんは言いながら、ふわりと微笑んだ。
作ったような完璧な笑顔ではなく、心からの柔らかな笑みだというのがわかった。
「奏多くん」
「うん?」
「ありがと」
「え?」
──ありがとう。私に恋をさせてくれて。
「あと、ごめんなさい」
──身勝手な気持ちで迷惑をかけて。
何に対するお礼と謝罪なのかがわからない奏多くんは、少し困ったように「何が?」と聞く。
だけど私はそれには答えないで、静かに首を振った。
「じゃあ、要件はこれだけ。呼び出してごめんなさい。さようなら」
私はそう言って、さっさと奏多くんに背を向けた。
……やってやったわよ。
歩きながら鞄を持ち直し、ぐっと両腕を伸ばす。
達成感で、すごく気持ちがいい。
「お嬢様」
「ふおわっ!?」
感慨に浸っているところで背後から聞こえてきた、耳に馴染んだ声。
ぞくっと肩が震える。