腹黒執事は、悪役なお嬢様への愛が強め
私は、ふうっと白い息を吐いて空を見上げた。
そして、独り言のようなトーンで言う。
「奏多くんのことは確かに好きだった。だけど結局、恋に恋してる部分が大きかったのかもしれないわね」
好きだった物語の影響で、恋をすること自体に憧れて。そこに現れた、王子様みたいな容姿の柳沢奏多くん。
「誰かを好きだって言えるのって素敵だなって、そういう些細な憧れ。そんな小さな憧れからの恋心、もう完全に消えちゃったみたい。貴方が言った通り、バレンタインチョコを渡すっていうのは良い区切りになったわ」
「それは何よりでございます」
鷹司は胸に当て、静かに笑う。
それから、思い出したように聞いてきた。
「そういえば、ここ数日一生懸命お菓子作りを練習されていましたが、あれは結局渡さなかったのですね。出来に納得がいきませんでしたか?」
「何言ってるの? バレンタインに手作りチョコを渡すのは恋人の特権でしょ? 奏多くんにはもともと市販品渡すつもりしかなかったわよ」