腹黒執事は、悪役なお嬢様への愛が強め
私は少し声をひそめる。
お菓子の話もいいけれど、私は席に着いてすぐから気になっていた。
新たにクラスメイトになった面々が、どうもちらちらと私たちの方を気にしているようなのだ。
まあ、その理由は何となくわかるけれど。
柳沢奏多に片想いしていた、教師ですらほとんど逆らえないお嬢様、岸井まい。その私が、なぜか柳沢奏多が溺愛する恋人と談笑している。
……という状況が不思議で仕方ないのだ。
「まったく。そんな警戒しなくたって、別に取って食ったりしないっての」
「きっしーさんも私もちょっと有名みたいだもんね。気になるならこっち見てるあの子たちも呼んで一緒にしゃべる? どうせ今日からクラスメイトになるんだし」
「なっ……馬鹿じゃないの!? あのねえ、誰もが貴女みたいにコミュニケーション能力高いわけじゃないの!!」
というか、葉澄は人気者という意味で有名だから良いけど、私は悪い意味で有名だから、話しかけたところで仲良くなれるとは思えない。
幸いにも始業のチャイムが鳴り、葉澄の提案はどうにか実行されずに済んだ。