腹黒執事は、悪役なお嬢様への愛が強め
聞いてはいけないことが聞こえた気がした。
この執事にしては珍しく本気で口が滑った感じだったけれど、知らない方が良い真実もあるので追及はやめておこう。
「聞こえなかったわ。何の話をしていたのだったかしら?」
「……お嬢様は香田葉澄様が大好きという話です」
「してないわよそんな話!」
「間違えました。お嬢様は自分の専属執事のことが大好きという話でしたね」
「さらにしてないわよ! 捏造しないで! もうちょっとマシな誤魔化し方ないの!?」
「ところでお嬢様、今朝の話の続きをしましょうか」
「だから誤魔化すの下手すぎるでしょう!」
大きなため息がこぼれた。
あまりに脈絡がなさすぎる。わざとなのかしら。
ブローの終わった髪を軽くかきあげ、私は鏡越しに鷹司と目を合わせた。
「まあいいわ。今朝の話の続きって?」
どんな話をしていたのだったっけ。
首をかしげれば、鷹司は机の上に飾られた香水瓶へ目を向けた。