腹黒執事は、悪役なお嬢様への愛が強め
「はい、話は以上でございます」
「は!? 今完全にお兄さんの思い出を話す流れだったじゃない!」
「お嬢様からの質問にはお答えしましたが?」
「そうだけど」
あくまで余計な情報は与えないつもりだ。
睨みつけても涼しい顔をするだけなので、私は諦めて大きくため息をついた。
「ま、それだけ話しただけでも上出来かしら」
「では、お嬢様の番です」
「え? ええ」
目を向けられて、私は言葉に詰まる。
実はもったいぶった割に、好みの香りというのは特に思いついていなかった。
香水の購入履歴を調べたって、好きな香りの傾向なんてわかるわけがない。勧められたものをそのまま買っているのだから。
だけど今さらそう言える感じではなかった。
「そうね……ムスク系はそこそこ好きかしら」
なので、パッと思いついたままにそう答えた。
それを思いついたのは、以前鷹司に抱きしめられたとき彼から香ったのが、爽やかで優しいウッディムスクだったから──。
……まあ、それは絶対に言わないけれど。