腹黒執事は、悪役なお嬢様への愛が強め
まあ、わざわざ起きる必要はないわね。
そう判断した私は、そのまままぶたの重みに任せておくことに決めた。
鷹司は、私が完全に眠っているものと思っているようで、一言も発しないままそっと私の額に触れた。
熱が下がったかどうか確認しているらしい。絶妙に冷えた手が心地いい。
──そんな眠気が一気に飛ぶ羽目になったのは、そのすぐ後のことだった。
額に触れていた心地いい手が、そのままゆっくり滑らせるようにして私の頬へと移動した。
そしてその指が、今度はふにっと唇に触れる。
いったい何をしてるのかしら?
ぼんやりした頭でそう思った瞬間──。
柔らかな息遣いとウッディムスクの香りが間近に迫った。
うっすらと目を開ける。
鷹司は、わずかに唇の位置を外して私にキスをしていた。
「な、な……に……?」
発した声はかすれていた。けれど頭はしっかりと覚醒した。