腹黒執事は、悪役なお嬢様への愛が強め



であれば、だ。運動部の活動のない今日、外に連絡できない彼女に助けが来るのは、冗談抜きに明日になるかもしれない。

あのひ弱そうな香田葉澄が倉庫の扉を蹴破れるとも思えないし、やはりどう考えてもやりすぎだろう。



……でも、そんな心配は全くもって必要なかった。



私が体育倉庫の前に戻ってきたとき、鍵を掛けたはずの扉は既に開いていた。

もう誰かが中にいる気配はない。




「なんだ。あの子、携帯持ってたのね」




彼女はちゃんと、友達なり誰かに連絡して助けを求めることができたのだ。

……よかった。

ホッとして、大きく息を吐いた。


その時だった。




「おやおや。あんな啖呵を切ったわりに、悪役にはなりきれないのですね」




背後から男の声がした。涼やかで、決して大きくはないのに聞き取りやすい声。

驚いて振り返ると、そこには燕尾服に白手袋という装いの男がいた。

歳は二十代前半といったところ。肌の色は、もう何年も日の光を浴びていないのではと思うぐらい白い。薄い唇の下にはほくろがあり、目は少し吊り上がり気味。



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