腹黒執事は、悪役なお嬢様への愛が強め
思わず時間を忘れて見入ってしまうような美形。けれど、耳元に光る服装に似合わないフープピアスが異彩を放っている。
「……誰よ」
私は謎の男に向かって思い切り睨みつけた。
睨む顔はかなり迫力があるらしい。よく言われる。
……だけどこの男は全くたじろぐ様子がなかった。
それどころか、ニコリとどこか胡散臭い笑顔を浮かべて言った。
「失礼いたしました。本日より、まい様専属で身の回りのお世話をさせて頂きます、執事の鷹司と申します」
「……執事?」
いかにもな格好ではある。むしろ、執事でなかったらコスプレイヤーという可能性ぐらいしか思いつかない。
でも、その自己紹介で警戒を解いたりはしない。
私は腕を組み、香田葉澄にしたときと同じように、執事を名乗る男のことを値踏みするように見る。
「うちには既に執事がいるはずだけど?」
「八坂さんのことでしょうか?」
八坂というのは、私が幼い頃から岸井家に仕える執事だ。年齢は確か60歳ぐらい。