腹黒執事は、悪役なお嬢様への愛が強め
「わ~! すごい!! 私、こんな綺麗なケーキ初めて見たよ柳沢くん!」
どうして知り合いの声って妙にはっきり聞こえるのかしら。
香田葉澄は、私たちのいる窓際のテーブルから割と近くのカウンター席にいた。
そしてもちろん、恋人のいる彼女が、12月24日にこんな場所に一人で来ているわけがない。
「確かに綺麗だけど、初めて見たは大袈裟でしょ」
「本当だって! ふふ、柳沢くんはやっぱり一番甘そうなやつ選んだね!」
「うるさいな。……ほら、一口食べる?」
いつも学校で見せる“完璧な王子様”といった雰囲気が緩んだ柳沢奏多くん。
きっと、葉澄と二人のときじゃないと見せない表情なのだろう。
奏多くんがからかうような調子で自分のスプーンを葉澄の口元に持っていけば、葉澄は「自分で食べるから!」と顔を真っ赤にする。
その葉澄を見る奏多くんの目は、どこまでも優しくて。