腹黒執事は、悪役なお嬢様への愛が強め
好きな人が恋人と仲睦まじそうにしているところなんて見たくない。そう思うのに、なぜか視線が二人に向いたまま、時間が止まったように逸らせなくなっていた。
「お嬢様?」
私の様子がおかしいことを敏感に察した鷹司が不審そうにする。そっと私の視線を辿った。
そして、すぐにその理由がわかったらしい。
「お会計をお願いいたします。……帰りましょう、お嬢様」
半ば引っ張るようにして私を立ち上がらせた鷹司は、そのまま支払いを済ませて店を出た。
奏多くんと葉澄は、最後までこちらに気が付かなかった。
鷹司は、私がぼんやりしている間に迎えの車を呼んでいたようだ。カフェの入っていた百貨店のすぐそこに、行きに乗ってきた車が待っていた。
機嫌が良かった行きとは逆で、沈み込むような気分のまま、自宅まで車に揺られた。
自分の部屋に入ると、どうやら気が抜けたらしく、一気に疲労感が押し寄せてくる。
「夕食までまだしばらく時間がございます。ゆっくりお休みください」