腹黒執事は、悪役なお嬢様への愛が強め
「もっと平気だと思ってたのにっ……! 自分がこんなにショックを受けてることが一番ショックだわ!」
じわりと目に滲んだ涙を誤魔化すように、私は力いっぱいテーブルを叩きつけた。
ドンという音が虚しく響き、手のひらがじんじん痛む。
──突如、ふわりと何かに包まれる心地がした。
「お止めください。手を痛めてしまいます」
ほんのりと香る、爽やかで優しいウッディムスクのような匂い。
……しばらく何がどうなっているか理解できなかった。
少し時間がかかって、やっと鷹司に抱きしめられているのだと気づいた。
「なっ、何よ! 離しなさい!」
「お断りします」
「執事のくせにちょくちょく私に逆らうの、本当に何なのよ……」
悪態をつきながらも、私は鷹司の腕の中が妙に心地良いことに気が付いた。
先ほど滲んだ涙が、今度はぽろぽろとこぼれて止まらなくなる。
「いいわ。離さないって言うんなら、涙と化粧であんたのこの高そうなスーツぐちゃぐちゃに汚してやるんだから!」
「それで貴女の気が済むのなら、いくらでもどうぞ」
返ってくるのは、涼しく穏やかな声。