最後のラブレター


そんなある夜、いつも通り病院に寄って自宅に戻った賢一の携帯に、妻危篤の報せが入った。
今しがた別れたばかりなのに、、

とんぼ返りに戻った病室には医師と看護師が二人、鎮痛な面持ちでモニターの数値を気にしながら立ち尽くしていた、

ベッドの脇に歩み寄った賢一に、妻はいつもと変わらない笑顔を返した、
ほっと胸を撫で下ろしては見たものの、病状は深刻らしい、

「……今日は…ないの?」

つい先程会ったばかりなのに、妻は日付が変わっているものと勘違いしている、
急な報せに用意する事も叶わず、賢一は困惑しながらも咄嗟に嘘をついてしまった、

「あるよ、ちゃんとあるから、、」

「………読んでよ」 いつものように妻は目を伏せて賢一の言葉を待っている、

ラブレターなどあるはずがない、読んでいるふりをして自分の今の気持ちを素直に話そう、
そう決めて、賢一は妻の耳元に口を近づけ囁いた、



「生まれ変わっても、、君と一緒になりたい」

「ありがと」妻は小さく頷いた、



「僕が迎えに行くまで、誘惑されたらダメだからね」

「……だ、、いじょうぶ……待ってる」



「愛してる、、」

「んふ…やっぱり………私が…好きなのね」





「まだ、まだ君と一緒にいたい、、、」

「わ……た……………しも」






「ぼ、僕を、、置いて逝かないで、、」




妻は口元を緩ませたまま、答えてはくれない、





妻の腕に縋りつき大泣きした賢一の耳に、無情にも医師の宣告が届いた、





暫くして、落ち着きを取り戻しつつある賢一に看護師は折り畳まれた一枚の便箋を手渡した、


「奥様からのラブレターです」

「妻から、、ですか、、」

「預かっていました、自分が命尽きたら渡して欲しいと」


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