春日の宮の珍道中 ドタバタ恋愛絵巻
第1章 久遠の巫女
「おーい、葵殿は何処じゃ?」 拝殿背後に有る飯所で爺が騒いでおりまする。
「爺、爺、何もそんな大声で叫ばずとも良かろうに。」 巫女の一人が怪訝そうな顔で爺を窘めておりますが、、、。
「ああ、葵殿ならさっき恒例のお散歩に出られたところじゃよ。」 年老いた巫女がさも迷惑そうに答えますと、、、。
「何じゃ。 またまた散歩に出掛けたのか。 拝殿の用意も有るというのに。」 「爺、それならばもう済んでおりますぞ。」
「なぬ? 済んでおるだと?」 「さっき、覗いてまいりましたが、葵殿が済ませたのでしょうぞ。」
これには爺も何も言えません。 すごすごと奥屋敷に戻って行かれました。
その葵殿はというと、富士の峰を歩きながら日の出を待ちわびておられるようで、、、。
「そろそろじゃな。 本日も風が心地よいではないか。」
漆黒の闇が少しずつ紫色になり、やがて赤らんでまいります。
それがまた少しずつ黄色くなり、辺りにホワーっと広がったかと思うと太陽の頭が顔を出すのでございます。
紫がかった雲の波がだんだんと白々しくなっていくのを今朝も愛でることが出来た葵殿は超ご満悦の様子。
「オー、やはりこの山から見る景色は最高じゃ。 うっとりするのう。」 葵殿は巣から飛び始めた鳥たちを見やりながら登り来る旭に首を垂れるのであります。
いつものようにいつもの道を歩きながら山中を散策しております。 他の巫女たちも今はせわしと走り回っているようであります。
「今日も人間どもが来るのであろう?」 「そうじゃなあ。」
「飽きもせずに詣でるのはいいのだが、供物がこうも少なくてはなあ、、、。」 「何を申される? 戴けるだけ有り難いではないか。」
「とは申すがな、人間どもの請願は山ほど有るんじゃぞ。 それを国中を走り回って叶えておるわしたちの身にもなってくれや。」
「そう言われてもじゃなあ、、、。」 「葵殿はどちらにおいでじゃ?」
拝殿裏の構え場では巫女たちも汗を拭きながら動いておりますが、、、。 爺は何かが気になるご様子。
「爺や。 何をそんなに狼狽えておいでじゃ?」 「何でもない。 そろそろ拝殿の準備をと思っているのじゃが、、、。」
「ああ、それか。 それならばもう出来上がっておりますぞ。 ほら。」 巫女の一人が拝殿を指差しますので爺も覗いてみました。
「確かになあ。 いつの間に?」 「葵殿のことですからなあ。 散策される前にやっておいでなのでしょうぞ。」
いつものこととは言っても掃除から何まで葵殿は一人で済ませておいでなのであります。 爺は感心したように奥へ戻っていきました。
旭がすっかり顔を出してしまうと葵殿は拝殿へやってこられまして、柏手を打ってから中へ入られました。
奥の座布団に腰を据えると穏やかな何とも言えない顔をされまする。 昼近くになれば登山して北人間どもが供物を並べ、鈴を打ち鳴らして願い事をブツブツ言って帰っていくのでしょう。
巫女たちはそれを見ながら「よくもまあ、あんだけの供物で願い事を一つも残さず漏らさずにお聞きになることよ。」 「我々のことなどどうでもいいのじゃろうてなあ。」
ブツブツ文句を言いながら冷ややかに笑っておりまする。 葵殿はそんなことなどお構いなし。
やがて日が高くなってくると登山道を歩く人間どもの姿が、まるで砂糖に群がる蟻のように見えてきて巫女たちはまたまた大慌てであります。
「いよいよ来おったわ。 今日はいかほどの物じゃろうなあ?」 「わらわに言われても困るぞよ。」
「それもそうじゃ。 そなたはまだまだなのじゃからなあ。」 「そんな意地悪を、、、。」
「まあいい。 今日も葵殿に任せるとしようかのう。」 炊事場も巫女たちは賑やかであります。
葵殿はいつものように澄ました顔で人間どもが来るのを待っておりまする。 何とも思わないのじゃろうか?
「あやつはあれだけで何とも思わんのじゃろうかなあ?」 男神が恨めしそうにぼやいておりまする。
「どうしたのじゃ?」 「人間どもの願いというやつを叶えておる我々の気にもなってもらいたいもんじゃ。 たったあんだけの供物で日本中を飛び回っておるのじゃぞ。」
「言いたいことは分からんでもないがここはまあ我慢しておくんなさいや。」 「そうは申されてもじゃな、、、。」
「ご不満でもお有りか?」 そこへ爺が入ってまいりました。
「これはこれは爺殿。 お達者で。」 「お達者も何も有るか。 今日もよろしく頼むぜよ。」
爺は巫女たちを眺め回すとまたまた何処かへ行ってしまわれました。 そろそろ人間どもが登ってくる時間では?
その頃、東京の隅っこも隅っこ、とあるカメラマンの事務所では?
「よし。 明日から岩崎望さんの写真集撮影を始める。」 「そんな急に言われても、、、。」
突進するカメラマン 雪之丞は付き人の吉田輝明にスケジュールを整えるように申し付けました。
実は雪之丞、業界では一目置かれるカメラマンなんです。 情景が気に入らないと撮影はその場でキャンセル。
被写体が時間に送れると一か月は文句を言い続け、事務所には「次の仕事は取らない。」などと吐き捨てる。
写した写真が気に入らないとその日のうちに撮り直し。 だからスタッフはいつも最高の状態で仕事が出来るように手配します。
たくさん居るスタッフの中でも吉田君はペットのように可愛がられている男なのですが、、、。
その吉田君でさえスケジューリングは冷や汗を流すことばかり。 「先生は言い出すと聞かないからなあ。」
前々から事務所に頼まれていた仕事だとはいってもこうも急では、、、。
ところが事務所も事務所でこうなることは分かり切っているから「分かりました。 すぐに手配して間に合うように行かせますから。」との返事を持ってきました。
「先生、事務所もオッケーです。」 「そうか。 じゃあ場所はグランドホテルのプールサイドにしよう。」
「えーーーーーーーー? それはまだ寒いんじゃ?」 「何でだよ?」
「まだまだ5月ですよ。」 「あそこなら室内だ。 寒くはない。」
「ったくもう、強情っぱりなんだから。」
吉田君は苦笑いしながらグランドホテルに電話を、、、。」 「ああ、雪之丞先生ね。 ばっちり整えておきますよ。」
「やれやれ。 先生はいきなり言い出して最高の物を作れって言うからなあ。」 お茶を飲みながら溜息を吐く吉田君であります。
翌日、設定通りにグランドホテルのプールサイドへ、、、、。 ところが、、、。
「このプールサイドは面白くないなあ。」 「何ですって?」
「こんな何も無い所に望ちゃんを立たせるのか?」 「そんなこと言ったって、、、。」
「出来ないなら帰るぞ。」 「いやいや先生、それは困ります。」
「じゃあ何とかしろよ。」 雪之丞の我儘が炸裂しました。
ホテルマンもこれには冷や汗です。 物置からも出せそうな物を探して持ち出してきました。
ガラスのテーブル、4人は座れそうなソファー、大きなパンダのぬいぐるみ。 そして誰が持ち込んだのか分からないマングローブのオブジェ。
「何でこんな物がホテルに有るんですか?」 スタッフも困惑するような物まで、、、。
雪之丞はそれらを見ながら指図しています。 「ソファーは真ん中でいい。 そこにテーブルを置いてくれ。」
2時間くらい掛けて場面を作っていくのですが、望ちゃんはその間水着にガウンで、、、。 「よーし。 始めるか。」
雪之丞が声を掛けたのは昼前でした。 「ったく、、、こんな時間に、、、。」
文句を言いたいのも我慢してみんなは撮影に動いています。 「よし。 そのカットは最高だな。」
時々、望ちゃんが着替えるのでスタッフはそのたびにカーテンを敷きまして、、、。 「おいおい、カーテンは邪魔だぞ。」
「そんなこと言ったってまだまだ18歳ですよ。」 「そうか、、、。」
吉田君も雪之丞を宥めながら仕事をしています。 (今夜も付かれそうだな。)
「爺、爺、何もそんな大声で叫ばずとも良かろうに。」 巫女の一人が怪訝そうな顔で爺を窘めておりますが、、、。
「ああ、葵殿ならさっき恒例のお散歩に出られたところじゃよ。」 年老いた巫女がさも迷惑そうに答えますと、、、。
「何じゃ。 またまた散歩に出掛けたのか。 拝殿の用意も有るというのに。」 「爺、それならばもう済んでおりますぞ。」
「なぬ? 済んでおるだと?」 「さっき、覗いてまいりましたが、葵殿が済ませたのでしょうぞ。」
これには爺も何も言えません。 すごすごと奥屋敷に戻って行かれました。
その葵殿はというと、富士の峰を歩きながら日の出を待ちわびておられるようで、、、。
「そろそろじゃな。 本日も風が心地よいではないか。」
漆黒の闇が少しずつ紫色になり、やがて赤らんでまいります。
それがまた少しずつ黄色くなり、辺りにホワーっと広がったかと思うと太陽の頭が顔を出すのでございます。
紫がかった雲の波がだんだんと白々しくなっていくのを今朝も愛でることが出来た葵殿は超ご満悦の様子。
「オー、やはりこの山から見る景色は最高じゃ。 うっとりするのう。」 葵殿は巣から飛び始めた鳥たちを見やりながら登り来る旭に首を垂れるのであります。
いつものようにいつもの道を歩きながら山中を散策しております。 他の巫女たちも今はせわしと走り回っているようであります。
「今日も人間どもが来るのであろう?」 「そうじゃなあ。」
「飽きもせずに詣でるのはいいのだが、供物がこうも少なくてはなあ、、、。」 「何を申される? 戴けるだけ有り難いではないか。」
「とは申すがな、人間どもの請願は山ほど有るんじゃぞ。 それを国中を走り回って叶えておるわしたちの身にもなってくれや。」
「そう言われてもじゃなあ、、、。」 「葵殿はどちらにおいでじゃ?」
拝殿裏の構え場では巫女たちも汗を拭きながら動いておりますが、、、。 爺は何かが気になるご様子。
「爺や。 何をそんなに狼狽えておいでじゃ?」 「何でもない。 そろそろ拝殿の準備をと思っているのじゃが、、、。」
「ああ、それか。 それならばもう出来上がっておりますぞ。 ほら。」 巫女の一人が拝殿を指差しますので爺も覗いてみました。
「確かになあ。 いつの間に?」 「葵殿のことですからなあ。 散策される前にやっておいでなのでしょうぞ。」
いつものこととは言っても掃除から何まで葵殿は一人で済ませておいでなのであります。 爺は感心したように奥へ戻っていきました。
旭がすっかり顔を出してしまうと葵殿は拝殿へやってこられまして、柏手を打ってから中へ入られました。
奥の座布団に腰を据えると穏やかな何とも言えない顔をされまする。 昼近くになれば登山して北人間どもが供物を並べ、鈴を打ち鳴らして願い事をブツブツ言って帰っていくのでしょう。
巫女たちはそれを見ながら「よくもまあ、あんだけの供物で願い事を一つも残さず漏らさずにお聞きになることよ。」 「我々のことなどどうでもいいのじゃろうてなあ。」
ブツブツ文句を言いながら冷ややかに笑っておりまする。 葵殿はそんなことなどお構いなし。
やがて日が高くなってくると登山道を歩く人間どもの姿が、まるで砂糖に群がる蟻のように見えてきて巫女たちはまたまた大慌てであります。
「いよいよ来おったわ。 今日はいかほどの物じゃろうなあ?」 「わらわに言われても困るぞよ。」
「それもそうじゃ。 そなたはまだまだなのじゃからなあ。」 「そんな意地悪を、、、。」
「まあいい。 今日も葵殿に任せるとしようかのう。」 炊事場も巫女たちは賑やかであります。
葵殿はいつものように澄ました顔で人間どもが来るのを待っておりまする。 何とも思わないのじゃろうか?
「あやつはあれだけで何とも思わんのじゃろうかなあ?」 男神が恨めしそうにぼやいておりまする。
「どうしたのじゃ?」 「人間どもの願いというやつを叶えておる我々の気にもなってもらいたいもんじゃ。 たったあんだけの供物で日本中を飛び回っておるのじゃぞ。」
「言いたいことは分からんでもないがここはまあ我慢しておくんなさいや。」 「そうは申されてもじゃな、、、。」
「ご不満でもお有りか?」 そこへ爺が入ってまいりました。
「これはこれは爺殿。 お達者で。」 「お達者も何も有るか。 今日もよろしく頼むぜよ。」
爺は巫女たちを眺め回すとまたまた何処かへ行ってしまわれました。 そろそろ人間どもが登ってくる時間では?
その頃、東京の隅っこも隅っこ、とあるカメラマンの事務所では?
「よし。 明日から岩崎望さんの写真集撮影を始める。」 「そんな急に言われても、、、。」
突進するカメラマン 雪之丞は付き人の吉田輝明にスケジュールを整えるように申し付けました。
実は雪之丞、業界では一目置かれるカメラマンなんです。 情景が気に入らないと撮影はその場でキャンセル。
被写体が時間に送れると一か月は文句を言い続け、事務所には「次の仕事は取らない。」などと吐き捨てる。
写した写真が気に入らないとその日のうちに撮り直し。 だからスタッフはいつも最高の状態で仕事が出来るように手配します。
たくさん居るスタッフの中でも吉田君はペットのように可愛がられている男なのですが、、、。
その吉田君でさえスケジューリングは冷や汗を流すことばかり。 「先生は言い出すと聞かないからなあ。」
前々から事務所に頼まれていた仕事だとはいってもこうも急では、、、。
ところが事務所も事務所でこうなることは分かり切っているから「分かりました。 すぐに手配して間に合うように行かせますから。」との返事を持ってきました。
「先生、事務所もオッケーです。」 「そうか。 じゃあ場所はグランドホテルのプールサイドにしよう。」
「えーーーーーーーー? それはまだ寒いんじゃ?」 「何でだよ?」
「まだまだ5月ですよ。」 「あそこなら室内だ。 寒くはない。」
「ったくもう、強情っぱりなんだから。」
吉田君は苦笑いしながらグランドホテルに電話を、、、。」 「ああ、雪之丞先生ね。 ばっちり整えておきますよ。」
「やれやれ。 先生はいきなり言い出して最高の物を作れって言うからなあ。」 お茶を飲みながら溜息を吐く吉田君であります。
翌日、設定通りにグランドホテルのプールサイドへ、、、、。 ところが、、、。
「このプールサイドは面白くないなあ。」 「何ですって?」
「こんな何も無い所に望ちゃんを立たせるのか?」 「そんなこと言ったって、、、。」
「出来ないなら帰るぞ。」 「いやいや先生、それは困ります。」
「じゃあ何とかしろよ。」 雪之丞の我儘が炸裂しました。
ホテルマンもこれには冷や汗です。 物置からも出せそうな物を探して持ち出してきました。
ガラスのテーブル、4人は座れそうなソファー、大きなパンダのぬいぐるみ。 そして誰が持ち込んだのか分からないマングローブのオブジェ。
「何でこんな物がホテルに有るんですか?」 スタッフも困惑するような物まで、、、。
雪之丞はそれらを見ながら指図しています。 「ソファーは真ん中でいい。 そこにテーブルを置いてくれ。」
2時間くらい掛けて場面を作っていくのですが、望ちゃんはその間水着にガウンで、、、。 「よーし。 始めるか。」
雪之丞が声を掛けたのは昼前でした。 「ったく、、、こんな時間に、、、。」
文句を言いたいのも我慢してみんなは撮影に動いています。 「よし。 そのカットは最高だな。」
時々、望ちゃんが着替えるのでスタッフはそのたびにカーテンを敷きまして、、、。 「おいおい、カーテンは邪魔だぞ。」
「そんなこと言ったってまだまだ18歳ですよ。」 「そうか、、、。」
吉田君も雪之丞を宥めながら仕事をしています。 (今夜も付かれそうだな。)
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