【書籍化予定】ニセモノ王女、隣国で狩る
 アマリーが十七歳になると、公爵は娘の結婚相手を躍起になって探し始めた。
 食いぶちを減らそうとしたのではない。
 一家は先祖代々受け継いだ絢爛(けんらん)豪華な屋敷から、もうじき立ち退かねばならなかった。せめて娘だけでも嫁がせて、路頭に迷うことがないようにしてやりたい、という親心からだった。
 多分。きっと、そう。……だとアマリー本人は今も信じている。

 だが公爵は肝心な時に決断力がなかった。
 社交界に出ないため世間にあまり知られていないが、アマリーは美貌の令嬢だった。
 肌は磁器のように白く滑らかで、少し憂いを帯びた青い瞳は、吸い込まれそうなほど澄んでいる。腰まである長い髪は、日光に眩しく輝く黄金色だ。
 だからだろうか。アマリーを娶りたいという奇特な貴族の男性は、二名ばかりいた。たとえ馬で沈没寸前の家の娘であっても。
 アマリーをぜひ妻にと名乗り上げたのは、鼻息荒い成り上がりの男爵と、優しそうだがちょっと年寄りの子爵だった。
 流石に以前なら娘を嫁がせる先として考えもしないような相手に、公爵は狼狽した。
 そう、身のほど知らずにも逡巡してしまったのだ。
 だがこの迷っていた半年間に、事態は急変していく。

 とんでもない命令が国王から下されたのだ。
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