辺境騎士団のお料理係!~捨てられ幼女ですが、過保護な家族に拾われて美味しいごはんを作ります~
 首をかしげたのは、今、包丁が動いたように見えたから。

 気のせい、だろうか。

 いや、気のせいではない。

 横倒しになった包丁がずずずっと調理台の上を移動してくる。そして、エルの目の前まで来るとピッと直立した。

「ぴゃー!」
「ぴゃーって何……わあ!」

 包丁を見たハロンも声をあげた。

 けれど、エルはちょっと驚いただけ。さほど怖くはない。

「……ほうちょうさん」

 ごとん、とお尻? の部分を台に打ち付けて、包丁はエルに挨拶した。挨拶でいいんだろう、多分。

「……その包丁、精霊がついてるみたいですね」

 洗った大量の野菜をざるに入れて持ってきたメルリノは、ハロンとは違って落ち着き払って、包丁に目を向ける。

「精霊がついているなら二回、音を立ててみてください」

 コンコン。二度、柄の部分が調理台にたたきつけられた。

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