どうやら私、推しに推されてるみたいです…。

ちょうど良い距離感で、推しを眺めている方が自分の性には合っているなと、最近ヒシヒシと感じていた。

だって、話してると緊張して心臓に悪いんだもん。

凪音くんから話しかけられるたびに、ドキドキしちゃってうまく喋れない。

クラスメイトなんだから、そんなに緊張してどうするのって言われればたしかにそうだし。

きっと胡桃ちゃんからは「そんな幸せ普通ありえないよ!贅沢すぎるんだからね」って怒られそうだけど…。

私みたいな地味系女子にとって、凪音くんみたいな一軍キラキラ系男子は、そもそも高嶺の花的存在なんだから仕方がない。

言いすぎかもしれないけど、胡桃ちゃんにとってのSAISONの小雨くんみたいなアイドルと同じ立ち位置なんだもん。

そりゃ、嫌いと言われよるよりは好きだと言われたほうが百倍嬉しいし、幸せなことだと思んだけどね…。

『芽結』

そう私の名前を優しく呼ぶ凪音くんを思い出すと、キュンと胸が締め付けられるような甘い痛みにおそわれた。

なんとまぁ、恐ろしい破壊力。

しかも無自覚なんだからまた恐ろしい。

「推しとの距離感って大事だよね…」

ポツリと呟いた私の本音は、バドミントンで盛り上がる体育館内にかき消されていったのだった――。
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