俺様同期の溺愛が誰にも止められない
「碧先生、影井のおばさまから素晴の衣替えを頼まれたんですが・・・」

外来も終わった午後の時間。
たまたま医局で二人になったタイミングで、円先生が声をかけてきた。

「え、衣替え?」
意味が分からない私は質問で返した。

「素晴って昔から季節の変わり目に体調を壊すんですよ。そのくせ本人は薄着をしようとするから、だから早めに衣替えして温かい服を出してやって頂戴っておばさまからの伝言で」
「ふーん」
「私がしてもいいんですけれど、それじゃあお邪魔でしょ、それに素晴も怒るだろうし。後でおばさまに文句を言われても困りますしね」
「うん、そうね」

少し過保護だなと思うけれど、お母様の親心なのだろう。
円先生がマンションに来るのはかまわないだけれど、お母様の指示だって言えば素晴は嫌がるだろうと思う。
27歳にもなって親に干渉されるのはいい気分ではないだろうし、その気持ちは私にだってわかる。

「おばさまも素晴を心配してのことですし、言いつけないでください」
「うん、わかっています。じゃあ、私の方で秋物を早めに出しておきますね」
「すみません、お願いします」

円先生にお願いされる話でもない気がするが、それは言わないでおこう。
実はこういう会話は今回が初めてではない。
どこからか私と素晴が一緒に暮らしていることを聞いていたらしい円先生は、時々実家からの伝言を伝えてくれる。
最初は『おばさまから素晴の好物を作ってやってと頼まれたのだけれど』から始まり、『おじさまが最近連絡をしてこないと心配している』とか、『もうすぐおじいさまの誕生日だから何か準備をした方がいい』とか、色々と声をかけてくれる。
もちろん私としては複雑な思いもあるが、「おばさまもおじさまも私と素晴が幼馴染なのを知っているから、だから私に言ってくるんだわ」と言われると断れなかった。
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