俺様同期の溺愛が誰にも止められない
「あら?」

扉が開き、入って来たのは上品そうな女性。
年齢は40代後半ってところだろうか、一見優しそうな良いところの奥様って感じの人。

「あの・・・」

どなたですかと聞きたくて、聞けなかった。
だって、どう見ても私の方が部外者って感じだ。

「ここは影井素晴の家よね、私は素晴の母ですが、あなたは?」
「私は・・・」

ああやっぱりと私は思った。
年齢的に少し若い気もするけれど、顔を見ていて素晴のお母様なのかもしれないと感じていた。

「お掃除をしていたの?」

頭のてっぺんからつま先まで一通り眺めて、お母様は不思議そうな顔をしている。

「え、ええ。私は・・・この部屋の掃除を・・・」
「もしかしてお手伝いさんかしら?」
「え、ああ、はい」

この時、なぜ私は嘘をついたんだろう。
素晴の彼女ですと言えなかったんだろう。
寝起きそのままのスッピンで、ジーンズとヨレヨレのTシャツにエプロンをした汚い格好だったからか、自分のような人間が素晴の彼女ではいけないと思ったからか、理由はわからない。
ただ、私は逃げ出してしまった。

「お掃除も終わりましたので、これで失礼します」

お母さまが声をかける余裕も与えず、普段使っている通勤用のカバンだけを持った私は部屋を飛び出した。
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