俺様同期の溺愛が誰にも止められない
それからしばらくして、父さんが使っていた時のままの院長室で私は素晴と向かい合った。

「何を考えているの?」
会えてうれしいよりも戸惑いの方が大きくて、私はつい強い口調になる。

「言っただろ、ここに勤めるんだ」
「そんなことしてどうするのよ。素晴は優秀な救命医だし、実家の病院を継ぐ人なのよ」

ここにいては素晴の能力が生かせるとは思えない。
せっかくのキャリアが閉ざされるようで、到底賛成なんてできない。

「俺の人生は俺のものだよ。もちろん実家のことは考えないといけないけれど、俺にだって人生を考える時間はあるべきだ。違うか?」
「それは・・・」

たとえそうでも、ここに素晴が来るのは違う気がする。

「俺が今やりたいのは救命の仕事だ。先々のことはわからないけれど、求めてくれる人の命を救う現場にいたい。去年の夏初めてここに来て、まずは環境の良さに心ひかれた。こんなところで暮らしたいと思った。それと同時にへき地医療にも関心がわいたんだ」

救命医になろうとする人は少なからず現場にこだわるし、こういう無医村での仕事をやりがいととらえる人だっている。
それでも、素晴には待っている人がいる訳で・・・

「俺なりに調べてもみたし、色んな人に話を聞いたんだ。その上で、まずは2年ここに勤めることにした。これは碧の為ではなくて俺のためだ。だから反対しないで欲しい」
「・・・素晴」

こうはっきりと言われては反対できなかった。
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