俺様同期の溺愛が誰にも止められない
「そうやって、私のこと笑っていたの?」
「え?」
彼女にしては強い口調に驚いて振り向いた。

真っすぐに俺を見る視線は挑んでくるようで、彼女が怒っているらしいとこの時気がついた。

「影井にはわからないわよ。何でも器用にできて、誰からも好かれて、フラれたことなんてないでしょ?」
「はあ?」
つい睨みつけてしまう。

俺の言葉が気に障ったのは間違いないのだろう。
平気な顔をしていたって、8年も片思いをしてきた相手が結婚して少なからず傷ついているところに、ずけずけと入り込んだ自覚は俺にもある。
しかし、俺の言いたいのはそういうことではないんだ。

「そんなに好きならなぜ告白しなかった?黙って何もせずにおいて、後でグダグダ言うのはずるいだろ」

俺は結果が全てだと教えられて育ってきた。もちろん金や社会的な地位ばかりを求めるつもりは無いが、戦いもせずに逃げ出すことは卑怯だと思う。
今回のことだってそうだ。飯島先輩は誰にでも優しくて、俺から見てもとてもいい人だ。
ただその優しさは万人に向けられたもので、彼女に特別な感情がある訳ではないはず。
何しろ飯島先輩は彼女の気持ちに気が付いていなかったんだから。

「もし告白して拒絶されたら、私は学校にいられなくなったわ」
吐き出されたため息とともに聞こえてきた沈んだ声。

「そうかもな」

確かに、彼女の視線はいつも飯島先輩を探していたし、距離を保ちながらも常に後ろから追いかけていた。
研修医として母校の大学病院に残ったのも、循環器内科の医師になると決めたのも、そこに飯島先輩がいたからだろう。
悔しいけれど、水野碧は飯島先輩に恋をしていた。
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