初恋の再会は金木犀の香り
「ホントに?」
「そうなの、覚えてくれていて嬉しかった」
「へぇ。よかったじゃない! それでいきなり告白なんて、すごいね。ドラマみたい」

 碧は嬉しそうに微笑んだ。

「明日はさっそく朝からデート?」
「うん、でも待ち合わせは昼から。午前中は予定があるそうでね」

 そこまで答えて碧は口を噤み、急にクスクスと笑いだした。

「碧?」

「やだわ、私。浮かれて自分からぺらぺらしゃべっちゃって。そうなの、ドライブに行くのよ。でも看病もあるだろうから、あまり長くは無理じゃないかって思ってる。遙が期待しているようなことはないと思うけど」

 おどけて話す碧に微笑み返すと、遥は少し表情を固くした。

「先代社長、どんな具合なの?」
「……まだ意識も戻っていないそうなの。戻っても、リハビリを含めて長い道のりになりそうだって。やっぱり復帰は難しいみたい」
「そう……ねぇ」
「なに?」
「近い将来、我が社の社長夫人になる可能性が高い碧さん」

 その瞬間、碧の顔が真っ赤になった。

「やだ、遥、からかわないで」
「そうじゃないわよ。社長夫人の役目も大変だけど、嫁として看病が大変じゃないのかなって心配してるの」
「……あ」
「頑張り屋さんの碧のことだから、手を抜かず尽くすんだろうけど。あまり無理しないでね」

 碧は遙の優しさを感じつつ、頷いた。

「ところで私も報告があるの。結婚、決まったわ」

 碧が、え? という顔をした。

「レギュラー番組も取れたし、安定してきたからそろそろって。一般人だから公にはしないし、私の生活が変わるわけじゃないけどね」
「おめでとう!」

 思わず叫んで立ち上がった碧は、周囲の注目を浴びて慌てて座り直した。

「おめでとう。よかったね」

 今度は声を潜めて繰り返した。

「まぁね。人気が出て、綺麗な女優さんに乗り換えられても太刀打ちできないし、その時は諦めようって思ってたから、正直ホッとしたわ。けど、ダイヤの指輪を貰ったら、やっぱり頑張って耐えてきてよかったって実感したよ。身内とホントに親しい友人だけ呼んで、小ぢんまりした結婚式をしようと話しているの。碧、来てくれるよね?」

「もちろんよ! わー、嬉しい」
「仕事の関係もあるから、なるべく早くしようと思ってる。決まったら連絡するね」
「うん! 楽しみにしてるから」

 嬉しいこと続きの碧の顔は晴れやかだった。


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