片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして


「お邪魔します」

 誠の部屋はバーから徒歩圏内にあり、単身者が住む間取りだった。明かりをつけると適度に散らかっていて、その生活感になんだかホッとする。

 誠みたいな人が『彼女の振りをして欲しい』と言ってはここへ連れ込んでいるとは考えにくいが、女性の痕跡があっても不思議じゃないし。キョロキョロ辺りを見回す。

「来客用のスリッパが無くてごめん。コンビニで買えば良かった」

「ううん、あ、お水は冷やしておく?」

 ビニール袋を掲げ、尋ねた。

「あぁ、冷蔵庫に入れといて」

 傍らの冷蔵庫を指すと誠は奥の部屋へ入っていく。慌ただしい物音から察するに片付けているようだ。

 私は言われた通り、冷蔵庫を開け2人分の朝食とデザートを入れる。アルコールと栄養ドリンクしか冷やされていなかった空間が華やかになった。

「お待たせ、一応座れる場所は作ったから」

 扉が開き、ベッドとガラステーブル、それからテレビ、必要最低限しかないシンプルな部屋模様が覗く。普段は自分が使っているであろうクッションへ私を促す。
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