片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして
「シャワーはどうする?」

 誠は座らず、襟足を気まずそうに擦って聞いてきた。

「……」

 到着して早々切り出されるのは想定外、反応に困る。

「いやいや、おかしな意味じゃない! 茜が嫌がることは絶対しない。俺は変な汗を沢山かいたから洗い流したいなと」

「……え、しないの?」

 私も私でストレートな返答をしてしまう。すると次は誠が固まってしまい、こちらが身振り手振りで弁解する番となる。

「あ、あの、私も変な意味で言ったんじゃないよ! 私達もいい大人だし、朝ご飯まで用意してる訳でーーその、えっと、部屋まで付いて来たくせ拒むのは萎えさせちゃうよね?」

 しどろもどろ。自分でも何を伝えているのか分からない。そういう行為を積極的にしたいのだと受け取られ、嫌われてしまうかも。

「あはは、何言ってるんだろう私」

 恥ずかしくなり俯く。膝の上で拳を作った。

「茜」

 ふいに柔らかい声が降ってくる。いたたまれない気持ちで返事をしないと、ポンッと頭を撫でられた。

「俺も男、下心が全く無いなんて言わない。でも一線を超えたくて部屋に招いたんじゃない。茜が恋人でいる時間を1分1秒大切にしたかったんだ。出来るだけ長く側に居たい」
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