片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして

■誠side

■誠side

「はぁ」

 シャワーを流す音が漏れてくると俺はやっと息を吐く。

「一体何なんだ、あの可愛さは」

 抱えた頭の奥から茜への率直な印象が溢れた。
 俺はかれこれ5年目ほど片思いをする相手が部屋に来てシャワーを浴びているという状況に理性を総動員し、紳士の仮面を付けている。   

 きっとこの仮面も僅かなハプニングで外れてしまうだろう。仕事上のトラブルならば冷静に対処出来るが、茜相手だとそうはいかない。いちいち反応が可愛く、斜め上の返事すら可愛い。つまり全部が可愛い。

 とりあえず水を飲んで頭を冷やそう。冷蔵庫を開ければ中身が整理整頓されており、玄関に目を向けると靴もきちんと揃えてある。

 町田茜は所作が美しい女性だ。控えめでいつも一歩引いて周囲を気遣い、俺の無茶なお願いを断れないお人好し。

 田舎の母が恋人に合わせろと言ってきたのも、俺は茜と付き合っていると嘘をついているから。最初は見合いを断る口実で願望を口にしていたが、何年も重ねていけば母の中で嘘は真実になっていく。
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