片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして
 一線を超えるつもりはなく部屋に呼んだというのは本心だ。ここまで温めてきた恋心を壊したくなんかない。大事にしたい。

 茜は俺にその気がないと分かると「……え、しないの?」と返したが、安堵していた。内心、俺が簡単に関係を持つ男だと思っていたのか。だとしたら全力で否定したいものの、じゃあ何も期待しないんだなと問われればそうもいかない訳で。

 情けない。本能と理性の天秤がぐらぐら揺れている。
 押しに弱い茜を丸め込もうと悪魔の俺が囁くと、そんな真似したって明日には同僚に戻るぞと天使の俺が諭す。

 もしも茜の肌を覚えてしまうと手離したくなるのが目に見え、1日限りの恋人ごっこじゃ満足出来ない。もっと側に、もっと一緒に居たいと求めてしまう。こんな想いをぶつけられても茜は困惑するだけ。

 部長と同等の業績を上げて告白する計画は延長に延長を重ね、もはや見通しが立たない。だからと言って、彼女の人の良さにつけ込んで得た機会で気持ちを打ち明けるのはフェアじゃない気がする。

 いや、彼女の振りをお願いする時点でフェアじゃないのだけれども。
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