片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして
 誠の顔がまともに見られない。気配で冷蔵庫の前に屈んでいたのが立ち上がると分かった。ペタペタ素足で近付いてくる。

「茜? 何かあった? カクテルの意味を調べてみてって試したのを怒ってる?」

「カクテルーーあっ!」

「調べてないのか。なら、どうして帰るって言う? ベッドは1つしかないけど茜に貸すつもりだよ」

「え? ベッド?」

 カクテルについて検索するのを忘れ、ベッドが1つしかないのも気付いていない私。話が噛み合わず、嫌な空気が流れ始めた。

「気が変わったのを責めはしないが、理由を聞いてもいいかな?」

「それは……」

 帰って仕事をするなんて答えられず、言い淀む。

「でも、お母さんに会う約束は絶対守るから心配しないで!」

「そういう意味で聞いてるんじゃない、分かるよな? 顔上げて、こっちを見ろ。俺、茜に避けられるような真似したか? したならちゃんと謝りたい。誤解されたくないんだ」

「誠は全然悪くないよ。私が悪いの」

 目の奥が熱くなってきた。後輩の件を話した結果、そちらを優先していいと返されたらどうしよう。彼女の振りは別の人に頼むと言われたらーー。
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