片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして
■

　アパートに戻り徹夜で資料を仕上げた後、私は鏡の前で絶望を塗り潰す作業をしている。
　充血した目、それを縁取るクマ、表情というキャンパスのコンディションは酷い。

「誠、怒ってるだろうなぁ」

　それどころか怒りを通り越した心境だろう。挙げ句、こんな疲れた有様で現れればどうなるか。とにかく念入りにコンシーラーを走らせ、チークを叩く。

　誠が迎えに来るまでに資料を置きに会社へ行かなくてはならず、あれもこれもとファッションショーをしている時間はない。お気に入りのワンピースへ袖を通す。

　今更だが誠はどんな女性が好みなんだろう。モテるという噂は聞くも、実際どんな人と付き合っている等の具体的な話は流れてこない。

　昇進が約束されている立場であるからこそ、恋愛対象は社外の人という可能性はあるか。社内恋愛は色々難しいと部長が言っていた。

　ともあれ彼の隣を歩く女性は素敵な方に違いなく、仮初めとはいえ１日その大役を務めるのだから寝不足などと弱音を吐いてはいられない。誠に会えば眠気は吹っ飛ぶはずだ。

「よし！」

　頬をペチッと叩き、気合いを入れ直すと会社へ向かう。
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