片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして
 休日で早朝となると出勤している社員は居ないーーはずだった。

「おや?」

 部署にはなんと部長の姿があり、お互い目を丸くする。

「……町田か、一瞬誰か分からなかったぞ。なんだ? 忘れ物でもしたか?」

 私服姿の部長は普段より柔らかい印象がする。スーツは戦闘服とは的を射た表現だ。あちらもめかし込む私に同じ感情を抱いたらしく言葉を続けた。

「デート? 羨ましい」

「部長は?」

「はぁ? 僕は仕事に決まってるでしょ。彼女に頼んだ書類を確認しにきたんだけど」

 彼女とは後輩である。部長は後輩の席へ視線を流し、休日出勤をしないであろうと踏む。それから何故、私が登場したのかも悟る。

「いい加減、厳しく叱らないといけないな。せっかくのデート前にすまなかった」

「デートとは言ってませんけど?」

「デートだろ、どう見たって。ワンピース似合ってる、可愛いよ」

「はいはい」

 どうせ鞄の中にある資料にあたりをつけてお世辞を言っているのだ。本気にしない。

「それで相手は誰?」

「え?」

「君は僕の可愛い部下だからね。どこの馬の骨とも知れない男にはやれないな。うちの社員なら僕を超えてなければ論外だ」
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