片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして
「ーーなぁ」

 グラスを置く朝霧くん。

「次に残業押し付けられそうになったら、町田も用事があるって言えばいいんじゃない?」

「え?」

「俺の件もそうだけど、町田は頼まれると断れない性格だろ? で、また残業を変わってくれって言われたら俺と食事でも行かない?」

「……」

 予期せぬお誘いで言葉が出てこない。

「駄目か?」

 小首をかしげる朝霧くん。願ってもない提案で断る理由もないものの、そんなポーズを取られればドキドキして照れ隠しをしてしまう。

「いやいや、駄目って言うか、朝霧くん忙しいよね? 急にご飯に行こうって言ったら迷惑になるでしょ?」

「はは、どう考えても急に母親に会ってと言う方が迷惑だ。俺は町田が残業押し付けられるの嫌だし、町田に誘われたい。確かに忙しいけれど都合をつける。いい?」

 約束しようと小指を差し出された。

「実際に食事に行かなくても口実として言ってくれてもいいよ」

「そ、そんな! あっ、これって明日のお礼とか?」

「俺と食事するのが礼になるのか?」

「うん!」

 自分の小指を眺め、頷く。これは自然なリアクションだった。

「そ、そっか。まぁ、別に残業押し付けられた時じゃなくてもいいけどな」

 朝霧くんが口元を抑えているのが見えて、ハッとする。
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