片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして
「も、もう朝霧くんってば! 明日の練習? リップサービスが凄い」

 耳が赤くなる気配を冷やそうとカシスソーダを煽る。朝霧くんの言葉を額面通り受け取って期待したらいけない。

「リップサービスって……俺は見え透いたお世辞なんか言わないし。でも明日に備えて恋人っぽい雰囲気作りは必要だよな」

「お互いを名前で呼ぶとか?」

「あぁ、それはいいなーー茜」

 下の名前で呼ばれ、心臓が飛び上がる。

「朝霧くん、私の名前知ってたんだ」

「誠」

「へ?」

「俺も名前で呼んでよ、茜」

 名前を繰り返されると、ここまで必死に誤魔化していた緊張がついに弾けた。鏡で確かめなくとも顔が真っ赤に染まるのが分かる。

「茜って顔に出やすいな。分かりやすくて助かる」

「っ、からかったの?」

「違う違う、素直で可愛いと思っただけ。やっぱり俺の事は朝霧くんのままで大丈夫。名前呼ぶ度に赤面してたら母にバレる」

「どうして? 私だってちゃんと呼べるよ! ま、ま、誠!」

 学生カップルでもあるまいに、名前を呼ぶのがこれほど照れくさいとは。朝霧くん改め誠も私につられ赤くなる。
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