片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして
 考えてみれば、紳士淑女が語らう場において私達のやりとりは初々しい。
 カウンター内のマスターと視線が交わり、微笑まれた。

「どうぞ」

 マスターが新しいグラスを出してくる。

「あの、頼んでないんですよ?」

「こちらはお店からです。プレリュードフィズはカルピスを使用しています。爽やかな口当たりでお気に召して頂けると」

 お酒に詳しくなく、バーの作法も知らない私は誠を伺う。すると彼はカクテルをじっと見つめ、それから肩を竦める。

「……せっかくだし、頂こうか。マスター、俺には同じものを」

 誠のオーダーを受け、マスターは視界から外れていった。

「ところで、お母さんに会うとなるとどんな格好すればいい? やっぱりスーツかな?」

「そんな畏まらないで。母は同窓会に出席するついでで寄るんだが、3人でお茶をしたいそうだ。駅前のカフェへ行こうと計画している」

「あぁ、あのカフェ! フレンチトーストが美味しいのよ!」

「へぇ、そうなんだ。よく食べに行くのか?」

「ううん、お店で食べたことはないんだけど、部長が差し入れでくれるんだ。ほら、うちの部長って甘党でね、1人で食べるのは恥ずかしいから一緒に食べようって」
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