片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして
 私の仕事が丁寧でミスが無いとか、後輩の指導に熱心だとか、たぶん部長が誠に伝えたのだと思われる。数少ない共通の知り合いを話題に上げて会話を膨らめるつもりが、誠は明らかに不満を浮かべた。

「フレンチトーストで茜のご機嫌取りするのは感心しない。管理職なら茜が残業を押し付けられているのを正すべき」

「それはそうだけど……でも機嫌を取ろうとしている訳じゃないよ。部長も誠と同じで若くして実力を認められた人でしょ? 正直な話、周囲からやっかみもあるみたい。だから甘いものを食べるのはストレス発散なんだ」

「それでよく2人で会議室に居るんだな。社内でも茜と部長が親しいって噂されてるぞ」

 誠の口調が段々と刺々しくなり、返す言葉が無くなってしまう。部長との関係を疑われるのもショックだった。

「ーーごめん、言い過ぎた」

 誠にもお代わりが運ばれてきて、それを一気に流し込む。

「ちょっとそんな飲み方をしたら!」

「彼氏なんだ、嫉妬して当たり前だろ?」

 制止しようとする手を取られ握られる。

「見て、12時を回った。茜は俺の彼女になった」

 確かに誠の腕時計は日付を跨ぎ、同時に帰宅を意識させた。
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