しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
◇
「あのさあ……。覚える気、あんの?」
この日、衣都は招待客リストどこまで覚えたかテストしてもらうために、律のマンションを訪れていた。
結果は、散々なものだった。
教室を休むことになり、時間はたっぷりあったはずなのに、ひとつとしてまともに回答できず、お叱りを受ける羽目になった。
「あのなあ、衣都。暇そうにみえるけど、俺だってまあまあ忙しいんだぞ?」
「ごめんなさい……」
「早めのマリッジブルーかなんか?響さんも、『衣都の様子が変だ』って心配してたぞ」
響の名前が出てきて、ドキリと心臓が跳ね上がる。
マリッジブルーという単語で済ませられるなら、まだよかったのかもしれない。
理由が理由だけに、響には教室を休むことになった経緯をまだ伝えられていない。
ぎゅっと唇を噛み締める衣都を見て、律は気休めを口にした。
「結婚が嫌になったらやめてもいいんだぞ?多少周りから白い目で見られるかもしれないけど、没落した三宅の人間なんてどうせ大昔に忘れられてる。どっちにしろ眼中にないだろうし、困ることもない」
口では結婚をやめてもいいと言ってはいるが、『四季杜海運』に務める律にとって、破談はひとごとではないはずだ。
律には愛する妻と養うべき子どもがいる。
律にここまで言わせてしまったことについては、衣都に責任がある。